第16話 心のメルヘン 『家族』
妻「お父さん、洋平の学校からまた呼び出しが来ていますよ」
夫「なんだ、仕事から帰った直後にする話か?」
妻「仕方ないでしょ、あなたは食事をしてお風呂に入ったらすぐに寝ちゃうんですから。とにかく授業をろくに受ける気がないようだからどうのこうのって・・・」
夫「そんなつまんないことをなんだって俺に言うんだ。学校のことはこれまでおまえがやってきたのに、なぜ今回だけこっちに振るんだよ」
妻「たまには代わったらどうなの。いつだって、すぐに逃げるんだから」
夫「なんだとぉ、いつ俺が逃げたって!」
妻「ふん・・・ほらね、そういうのを"風呂屋のせがれ"って言うのよ。"ゆうばっかし"。なによ、父親の自覚なんかこれっぽっちもないくせに」
夫「ガハッ、下手な洒落言うんじゃねぇよ。笑っちゃうじゃないか。なにより俺は忙しいんだ。つまんないことを持ってくるな」
娘1「お母さん、お母さんってば、恵子がね、わたしの持ち物勝手に使うんだよ」
娘2「嘘だよーっ、姉ちゃんが貸してくれるって言ったじゃないかぁ。嘘つきーっ」
娘1「いつ言った。何月何日の何時何分のどこで言った。さあ証明してみろっ」
娘2「うーんとね・・・」
夫「やかましい。おまえらまで、ごちゃごちゃつまらん漫才やるんじゃないっ、あっちへ行けっ、しっしっ」
妻「ほらほら、お父さんのいるときにそんな話をしないの。もういいから向こうに行きなさい。明子はお姉ちゃんなんだから、そんなことは我慢しなさい」
娘2「ふん、いっつも、お姉ちゃんだから・・・恵子のバカ、おまえのせいだ」
娘3「お姉ちゃんのアホウ」
息子「おふくろ、パンパカパーン、目出度く金が終わりやした」
妻「まぁた、おまえは・・・ガクッとすること言わないでよ。この前やったお金はどうしたの?」
息子「全部、ゲーセンで使いやした」
妻「ゲ、ゲームセンターで・・・全部」
夫「このバカモノがっ、金は使えばなくなるのはあったりまえだ。そんなことよりちったぁ勉強しろ、バカモノ」
息子「んだよ、親父、いたのか、バカバカとうるせぇな」
夫「なんだ、だと、いたのか、だと、うるせぇ・・・だと、この大バカヤロー、親をなめるんじゃねぇ!」
妻「あなたっ、やめてよ、なにも殴ることないでしょ・・・あ痛っ、なんだってわたしまで殴るのよ!」
夫「ついでだ、バカヤロー! 大体が、おまえが甘やかすからこのバカがつけ上がるんだ」
息子「くそ親父め、勉強しろって言うか、殴るしか能がないのかよ。ケッ、やめたやめた、オレは出てくぜ、こんな家」
夫「あーっ出てけっ! 結構だ、二度と戻るんじゃねぇぞ、てめぇなんざ、金輪際せがれでもなんでもねぇ、ただのバカガキだ」
妻「ちょっと、あなた、これ洋平、待ちなさい」
娘1「えっ、兄ちゃんどこかへ行くの?」
娘2「わぁ、旅行に行くんだ。いいなぁ、わたしも連れてってよーっ」
妻「うるさい、あんたたちはちょっと黙ってなさい。洋平っ、待ちなさいってばーっ!」
夫「ほっとけ、ほっとけ、そのうちに戻ってくるさ」
夫「そんなわけでしてね。せがれが出ていってかれこれ二ヶ月ほどになるんですが、まだ戻る気配がないんですよ」
妻「そうなんです。この人も反省してくれて、多少は父親らしくするって言ってくれたので、今度帰ってきても、さほど辛い思いはさせないと思うのですが・・・」
娘1「どこにいるのだろうね、兄ちゃん」
娘2「まだ旅行中だよ。わたしも行きたいよーっ」
赤ん坊「オギャー、オギャー」
妻「あっ、オッパイね、いまあげますよ。ああ、この子は洋平が出ていった後で産まれた子なんです」
夫「で、相談なのですがね、この先どうしたもんなのでしょうかねぇ。このままじゃ、あたしはどうにもこうにも・・・」
『はい、お話はとても良く分かりました。そりゃ大変でしょうね。・・・それで、家族の問題もしかりですが、実はあなたの場合はそれ以前に大きな問題を抱えています。お聞きになったことありませんかねぇ、multiple personality disorder と言う言葉。あっ、英語はダメですか・・・えぇと、俗にMPDとも言われるのですが、我が国では"多重人格障害"と呼ばれています。ま、ぶっちゃけた話、ひとつの頭の中に何人もが同居しちゃうわけですよ。家賃も取れませんしねぇ、アハハ。いや、その、それに普通は、同居人同士の意志の疎通はないのですが、あなたのところは家族同様・・・失礼、家族そのものでしたね、しかも増殖傾向にある。本当に珍しいレアケースなのですよ。いや、ホント、ハハハ・・・』
第十五話近未来のメルヘン『男と女』
第十四話地獄のメルヘン『天国に至る道』
第十三話SFメルヘン 『未完の宇宙』
第十二話『セラミック革命』
第十一話『不協和音』
第十話『−184℃』
第九話『フェヒナーの法則』
第八話『もう一つの顔、パート2』
第七話『常識のウソ』
第六話『もうひとつの顔』
第五話『複合民族国家』
第四話『古代文明への誘い』
第三話『翼のない天使』
第二話『狂気の価値』
第一話『タバコ飲みの効用』