第13話 SFメルヘン 『未完の宇宙』
太古の昔、1年は360日だった。
地球は360日掛けて太陽を回り、月は30日で地球を一周した。地球は1秒の狂いもなく24時間で一回転していた。
なによりも、完全無欠な宇宙数【6】がすべての底辺にあった。
だが宇宙の創生者たちは、完全無欠には飽き飽きしていた。あえて不完全を造れば、ことによると完全無欠を乗り越えられるかもしれない、と期待を抱いたのだ。
まず、6よりわずか少ない曖昧数【5】を造り、この曖昧数【5】に宇宙数の【6】が掛けられ【30】を造った。
これをひと月として1年を12ヶ月に区分した。1日も30を当てはめ、昼15時間、夜15時間、足して30時間とした。1時間は30分、1分も同数となった。
だが、無限の時間を存在する宇宙創生者たちにとって、時間はさほど重要事ではなかった。
「昼15時間は語呂が悪いよ」と月数の12時間に簡単に変更され、ついでに「減らしたからどこかを増やそう」と1時間は60分、1分は60秒と修正された。
だが、この360と30と12はとても気に入った。クロスワードパズルのように宇宙のあちらこちらにこの数字を填め込んだのだ。
太陽系の惑星は11個、太陽を加えて総数12個とした。各惑星の衛星"月"は合計30個となり、太陽は360個でひとつのグループを成し、それぞれが星団を形成した。さらに30個の星団が集まって"球状星団"となり・・・以下略。
また、骨格構造を成す生命体の大骨は12本、中骨は30本、小骨は360本とした。ただし、生命体が外部へと開放する"穴"だけは宇宙数の【6】にこだわった。「もしも動かなかったらどうするの」という強行意見があったからだ。
曖昧さの典型を残すために、手足の指は5本とした。体幹は手足が4本、胴体・首で1本、尻尾1本で合計6本となった。
生命体の増殖については議論があった。アメーバ状の細胞分裂や蜂や蟻のような無性生殖では芸が無さ過ぎると、"有性生殖"が提案された。身体の構造変更は"雌"となるものの身体から一部を取り出し、それを"雄"となる身体に付け足す微少な変更でこと足りた。これで凸と凹が出来上がった。
出来映えにみな一様に感動し、この凸凹の概念は他の様々なものにも取り入れられた。
"ブラックホール"の凹や"ホワイトホール"の凸もこうして造られた。
生命体の"仕様プログラム"は各自の自主生産となり、親から子へと受け継がせる"遺伝子"が考え出された。これはこれで便利だったが、時に遺伝子が千切れ跳び、種々の悪さをすることが判明した。我々の言う"ウイルス"だが、宇宙の創生者たちは"病原菌"も含めこの類のバグにはまったく無頓着だった。
"円"は、小宇宙のレプリカとして1年と同じ360度を当てはめた。
クモの巣や蜂の巣も、最初は宇宙を模したサークル状を考えていたのだが、いつのまにか宇宙数の6角形に収まってしまった。たまに、12角形や変形があったが"誤差"ということで完璧に無視された。
星たちは、すべてが完全な円軌道を描くように配置された。だが、それで完結してしまっては面白くない。"宇宙を乱すもの"として"彗星"が考えられ、太陽系最外縁を回る惑星に楕円軌道が与えられた。これで星たちの軌道にわずかな狂いが生じる。わずかな狂いはさらなる狂いを呼び、時間の経過と共に宇宙が少しずつ乱れていく。
宇宙創生者たちは顔を見合わせ、寝乱れた、あられもない姿の宇宙を想像して思わずほくそ笑んだ。完璧な宇宙を造らないことが、当初の完璧な計画だったのだ。
終盤になり、宇宙にさらなる"混沌"を与えようと工夫が凝らされ、だれかの提案で"エントロピー"が導入された。これで時間の経過と共にすべてのものは無秩序へと移行する。 この"秩序あるものの崩壊過程"は、満場一致で迎えられた。宇宙創生者たちにも"他人の不幸は密の味"だったのだ。
こうして、宇宙のインフラ整備はあらかた終わった。
残されたのは"意志"だけとなった。創造物に目的を持たせる意志だが、何に持たせるかで意見が割れた。「太陽がいい」と言う者、「いや、当初の計画通り宇宙全体にもたせよう」と言う者、様々だったが、凸凹を考え出した者の「どうせゴミのような宇宙なんだから、このゴミみたいなものに持たせよう」という意見で、"意志"はゴミのような"人間"に委ねられた。
これは多数決で決まったのだが、この時点で宇宙創生者たちの興味は急速に醒めていった。民主的に事を進めることは決して楽しくはないのだ。
「よーし、今度は別のものを造ろう」を合図に宇宙創生プロジェクトは一瞬にして散り散りバラバラになった。
物置の隅に水生動植物観察用のアクアリュウムが埃を被り放置されていた。未完成のスペースリュウムは、その水槽の上に乱暴に積み上げられた。
第十二話『セラミック革命』
第十一話『不協和音』
第十話『−184℃』
第九話『フェヒナーの法則』
第八話『もう一つの顔、パート2』
第七話『常識のウソ』
第六話『もうひとつの顔』
第五話『複合民族国家』
第四話『古代文明への誘い』
第三話『翼のない天使』
第二話『狂気の価値』
第一話『タバコ飲みの効用』