第十二話『セラミック革命』

"風の谷のナウシカ"をご存じだろうか。
核戦争以後の荒廃した世界を描いたアニメの傑作だが、そこで描かれている世界は地表のすべてがセラミックの破片で覆われていた。
この"セラミック"だが、古代より"陶器"とも"磁器"とも呼ばれ、昨今では鉄を削る旋盤の刃先にも使われ、台所の包丁としても使用されている。

ひところ、"セラミック・エンジン"と称して冷却のいらない内燃機関が研究されていたのだが、あれはどうなったのだろう?
確かにセラミックは熱に強い。以前、酸素アセチレン炎で試したことがあるが、手のひらに載せた厚さわずか1.5pのセラミック・ウールが完全に熱を遮断した。フワフワとした綿状の物質が3000℃の熱を手に伝えなかったのだ。これには驚嘆する。

のみならず、鉄を削る硬度をも併せ持つ。
刃物として使えるのは、実は"アモルファス"の性質があるからなのだそうだ。
アモルファスとは"非晶質"、つまり固体であって結晶体ではないということだが、自然界のほとんどのものは液化状態から固化するときに結晶構造を成す。だが、アモルファスはその結晶化の過程が極端に長い。自然界のアモルファスとして"ガラス"や"黒曜石"がよく知られている。
ちなみにガラスは制作されたときがもっとも強度があり、年月と共に結晶化が進み脆くなっていく。一般には結晶化の過程は200年とも2000年とも言われているが、定かではない。

アモルファス鉄と称されるものがある。
セラミックをタイトルに上げながら話を飛ばして申し訳ないが、どこかで辻褄合わせはするつもりなのでご容赦。行き当たりばったりで書いているとこいうことになる。
アモルファス鉄が通常の鉄の数倍〜十倍の引っ張り強度を持ち、かつ強磁性体であることもつとに知られている。この鉄を使用すれば土木・建築構造物の躯体も大きく変わることだろうが、溶接が困難なために、つまり熱を外部より加えた瞬間に通常の鉄に戻るためまだ実用化には至っていない。
一方、強磁性体であることから、弱電機器、特に磁気を扱う部位に使用されている。カセットデッキやVTRの磁気ヘッドはこのアモルファス鉄なのだ。なぜ弱電機器のみに、という疑問は、その製作段階を知れば理解できる。
鉄の溶融した状態から固体に至る時間は量と気温にもよるだろうが、通常は十数秒〜数分程度と考えられる。それだけの時間を与えれば、鉄は容易に結晶構造を造る。
ならばさらに短時間で急速に鉄を冷やしたらどうなるか、具体例として、巨大なフライホィールを冷却した状態で回転させ、頭上から溶けた鉄を垂らすという方法がある。
ただ、この方法では薄い帯状のアモルファス鉄しか制作できず、従って、それを重ねて使用する磁気ヘッド程度にしか実用化されていないのだ。
さらには、日本刀の刃入れがある。1000℃程度に熱した鉄を瞬時に水につけ焼き入れするものだが、あれとても部分的なアモルファス状態を造っていると考えられる。

またアモルファス鉄は導電体であるがために強磁性という性質を表した。本来の鉄の数倍以上の強度をも示した。
他方、セラミックはというと、熱遮断や耐熱能力は既知のものだが、電気絶縁体であることが今日また脚光を浴び始めているのだ。
夢の"常温超伝導"は、このセラミックなしには成り立たない。正確にはセラミック合金と呼んだ方がよいのだろうが、かつて、液体ヘリウム【−269℃】領域でしか生じなかった"超伝導"が、液体窒素【−196℃】領域となり、現在は常温にあと一歩【−100℃前後】のところまで迫っている。
変電所から各家庭までの送電線が超伝導線となり、家電機器に超伝導が使用されるようになれば、必ずや一大革命が起きよう。

古くて新しいものセラミック。そのセラミックを主素材とする世界、"風の谷のナウシカ"の世界が、まもなく現実のものとなるのかも知れないのだ。


第十一話『不協和音』
第十話『−184℃』
第九話『フェヒナーの法則』
第八話『もう一つの顔、パート2』
第七話『常識のウソ』
第六話『もうひとつの顔』
第五話『複合民族国家』
第四話『古代文明への誘い』
第三話『翼のない天使』
第二話『狂気の価値』
第一話『タバコ飲みの効用』